ファッションブランド【muuc:ムーク】が一緒にものづくりをしている工場や、その現場で働く職人さんを紹介します。少しでも多くの人に、私たちの製品の製造現場を見ていただきたいと思っています。
今回は、福島県伊達市にあるニット工場の「木幡メリヤス」さんをご紹介します。私たち【muuc】のニット製品には、なくてはならない存在の工場さんです。
●福島のニット工場「木幡メリヤス」
私たちが「木幡メリヤス」と出会ったのは、2年ほど前のことだったと思います。コンピューター編み機を使って編み立て、縫製、アイロン(プレス作業)、ボタン付け、梱包作業などをしている工場さんです。
ニット製品には、いろいろな作り方があります。生地で作る洋服は、一般的に、型紙(パターン)を作ってから生地をその形に切り、ミシンで縫製して制作します。ニットもこれと同じように、編み上げた布状のものを切って縫製する方法や、編み機の中で服の形になるように作る(無縫製ニット)方法などがあります。
しかし「木幡メリヤス」では、服の形に編み上げて、それを「リンキング」という技法で編みつなげて(縫製)する製造方法で、ニットを作っています。非常に手間のかかる方法ですが、デザインの自由度が高く、縫製をきれいに仕上げることができます。
福島県伊達市は、奈良・平安時代ぐらい昔から養蚕業が始まったとされ、江戸時代には生糸を売買する大市で栄えた土地です。そんな繊維産地にある「木幡メリヤス」も、10年くらい前までは、工場が2カ所にあり工員もたくさんいたのだそうです。
しかし、2011年に起こった東日本大震災の影響で、第2工場を放棄せざるを得ない状況に。工場をやめなければならなくなった人も多く、工員もずいぶん減ってしまったそうです。
そのような苦しい時期を乗り越えて、規模は小さくなったものの、現在もニットを作り続けています。情熱のある工場さんです。
●「木幡メリヤス」との商品開発
「木幡メリヤス」との出会いから、開発期間1年以上を経て生まれたのが、昨年の秋に、私たちが【muuc】の最初のコレクションとして発表した、3つのニット製品です。
1つ目は、リンドウ柄のシルクコットンのアンサンブルです。
リンクス編みやタック編みを応用して凹凸を作り、リンドウ花を編み方で表現しています。どんな編み方で表現するか、工場の職人さんと試行錯誤しながら制作しました。
2つ目は、コットン透かし柄とチュール生地のカーディガンです。
前身頃の透かし柄のニット地は、まず私たちが手編み機で柄を作り、それをもとに、工場で編地をプログラミングしてコンピューターニットで編めるようにプロダクトに落とし込んでもらいました。
3つ目は、シルクコットンのリブタンクトップとリブレギンスです。
「上質なインナーを作りたい」という私たちの思いから商品開発が始まりました。シルクコットン素材の強撚の糸をリブ編みすることで、ニットが肌に張り付かず、さらっとした着用感を実現することができました。
●「木幡メリヤス」のニット製品のひみつ
写真でも、その編み上がりの繊細な美しさが伝わるのではないかと思います。「木幡メリヤス」のニット製品が、このように上品な仕上がりになるのは、理由があります。
型紙(パターン)の形にニットを編むことを、「成型編み(せいけいあみ)」と言います。成型編みをすると、服(型紙)の形に編むため、糸のロスが出づらく縫いしろを薄くすることができます。
成型編みのニットのロスは、原料の約3〜5%程度。洋裁をやったことがある人はわかると思いますが、普通に服を作ると、生地を切った後の捨てる部分を、使用する部分に対して5%以下にするのは、至難の業です。
さらに、縫いしろが薄いということは、その部分がごろごろして着心地が悪くなることをおさえることにもなります。また、ロスが少ないということは、ゴミも少ないうえに、販売価格をできるだけ下げることにもつながります。
そんなにいいことばかりなら、当然どんな工場でもこの方法がとられているはずです。しかし実際には、この方法は複雑な作業工程を含み大変な手間がかかるので、こういった作り方をするニット工場は減ってきています。
ニットは非常に伸縮するので、普通のミシンや、ロックミシンで縫製するとつっぱってしまい、縫製糸が切れる原因になりやすく、着心地もよくありません。また、「無縫製ニット」で作ると、機械に合わせてニットをデザインしなければならなくなるので、編み方が限られ、仕上がりのシルエットなど、デザインに制限が生まれやすくなります。
一方で、「木幡メリアス」のような作り方をすれば、ニットの編地、編み模様などのデザイン面での自由度が高いうえに、「リンキング」と呼ばれる縫製方法を使えば、着心地もかなり改善されます。 しかし「リンキング」は、ニットの編み目を一目一目すべて拾って、編み目を編みつなげるというミシンを使っての作業になるので、どうしても手間がかかってしまうのです。
どれくらい手間のかかる作業かを実際にご覧になりたい方は、こちらの制作現場の動画をご参照ください。
●工場さんに支えられてブランドはある
私たちのブランドは、15年前、その前身となるブランド【everlasting sprout:エバーラスティング・スプラウト】からスタートしています。糸を使った表現を得意とする村松が、これまでにないニットや刺繍の美しい表現に挑戦してきました。
昨年、2019年の秋にブランド名を【muuc】に変更するまでの数年間、実は私たちのコレクションではニットを作ることをやめていました。ファッションアパレルを取り巻く環境が急激に変わり、他にはない自分たちだけの価値を、胸を張って提供できないと感じていたからです。
そんな状況から抜け出して、再びニットを作ることができるようになったのは、「木幡メリヤス」との出会いがあったからでした。
工場の職人さんたちは、私たちとの商品開発に情熱をもって向き合ってくれました。私たちよりも業界でのキャリアの長い職人さんたちが、様々なことを教えてくれつつ、自分たちもこの仕事から何かを「学ぼう」という姿勢で向き合ってくれているのを感じて、とても胸を打たれました。お互いの技術を高められる、とてもいい関係性で製品を作り上げることができたと思います。
ニットは、計算通り、指示通りに作っても、うまくいかないことが多々あります。私たちの表現したいこと、私たちの要望に、とことん付き合ってくれる工場がなければ、特別なニットは生まれません。
「木幡メリヤス」の協力を得て、今後、私たち【muuc】は積極的にニットのコレクションを出していく予定です。来月、4月1日に発表する2020-21秋冬コレクションも、ニットを「木幡メリヤス」と一緒に作りました。
また、デザイナー村松のニット専門のセカンドブランド【AND WOOL:アンドウール】でも、初めての工業製品として「シルクコットンのニット」を制作し、先日から予約販売を開始しました。こちらの商品も、実は「木幡メリヤス」と開発した製品です。
これからも「木幡メリヤス」と一緒に、他にはないすばらしいニット製品を作って、皆様にお届けしていきたいと思います。