こんにちは。ファッションデザイナーの村松啓市と申します。

私は、「muuc:ムーク」と「AND WOOL:アンドウール」という2つのブランド運営をしながら、「雇用創出プロジェクト」という活動に取り組んでいます。

この活動は、様々な事情から外に働きに出ることが難しい人たちに、在宅ワークでできる仕事を提供したり、低価格な賃金設定がされることの多い就労支援事業所さんに適正価格でのお仕事発注をしたりするものです。

これらの活動は、社会貢献という意味合い以上に、年々減少しているアパレル現場の製品製造の担い手となる「編み手職人」を育てたいという目的があり、私たちがものづくりを続けていくためには、必要不可欠な活動だと考えています。

そんな中で私たちは、就労支援事業所の方たちと「どのような作業ならお願いすることが可能か?」というところから一緒に考えながら、デザインから製造工程までを試行錯誤して作っていく「商品開発」を行っています。

今回は、そんな商品開発を経て完成させた「手編み機でつくる靴下」についてご紹介したいと思います。

 

●みんな「あたたかい靴下」がほしい

私たちの商品開発は、普段から接しているお客様や地元静岡の農家さん、私たちのアトリエにお仕事を手伝いに来てくれているワーカーさんなど、身近な方たちの「声」から始まることが多いです。

今回の靴下も、まさに周囲の人たちの話を聞いていて「みんなあたたかい靴下がほしいんだな」と感じたことから商品開発がスタートしています。

女性は特に冷え性で悩んでいる方が多く、足元からくる冷えをカバーするあたたかい靴下がほしいという声を、度々聞くことがありました。また、介護が必要な方や寝たきりの方の足のケアのために、あたたかくやさしい風合いの靴下を探している方が多いようでした。

私たちがよくお世話になっている、富士宮市の「北山農園」さんからは、冬の農作業中に足の冷えがつらいという話も。早朝、気温の低い時間帯から畑に出て作業をする農家さんも、冬の足の冷えに悩んでいる方が多いとわかりました。

 

 

●みんながほしい靴下を就労支援事業所さんと作りたい

たくさんの方が必要としている「あたたかくてやさしい靴下」。それを、就労支援事業所さんと一緒に作ることができたら……、そんなことを考えて私たちは、早速商品開発を始めることにしました。

まず、私たちが作る靴下は、「暮らしの中に溶け込む機能性」があることが大事だと思いました。ですから、靴下の機能として必要なこととして

・やわらかいこと
・締め付けすぎないこと
・重ね履きできること
・靴が履けるように厚すぎないこと

などをクリアできていなければなりません。さらに、これを就労支援事業所さんにお仕事を発注して作れるようにするために、

・手編み機で誰でも作れること

が条件として加わります。

作業工程の一部を誰にでもできるようにして、さらに機能性も高い靴下の制作への挑戦です。

 

 

●ニット専門ブランドにしかできない靴下を

私たちのニット制作はいつも、素材を吟味するところから始まります。それぞれに個性があり、良いところも悪いところもある糸の中から、私たちが求めている条件の靴下に最も適した素材は何なのかを考えていきます。

今回たどり着いたのは、「カシミヤ5%/ウール70%/ナイロン25%」の糸でした。カシミヤとウールでやわらかさを出し、そこにナイロンを混紡させることで靴下の強度を増します。

そして、私たち「AND WOOL」が得意とする加工技術によって、風合いをさらに引き出すことができる素材でもあります。

 

 

次に行うのは、手編み機によって効率良く靴下を編むための、「編み方のデザイン」です。編み方や仕上げ加工を担当する作業者によって、品質が変わらないように、細かい部分に工夫が必要です。

本来、ニット製品の製造には、作り手の上手・下手が出やすいので、この部分の試行錯誤は非常に重要なプロセスになります。

さらに今回は、手編み機を就労支援事業所さんに発注したいこともあり、現場のスタッフの方などにも相談しながら工夫を重ね、慣れていない人が作業をしてもきれいに作れるようにデザインしました。

 

 

そしてここから、専門的な技術をもったスタッフが、手作業で靴下の形に接いだり、糸始末をしたり、洗いをしていきます。

つま先とかかとは、足のフォルムに沿った立体的な丸みをもたせたデザインにすることで、動いてもズレにくいようにしています。「引き返し」という、少し難しい編み技法を使っています。強度と伸縮(フィット感)が出るように、この部分にはナイロン製の糸を裏面に引き揃えて編んでいます。

 

 

履き口には「袋編み」という技法を使い、つま先とかかとと同じくナイロン製の糸を引き揃えています。一般的な靴下のようにゴム糸を入れていないので、締め付け感がありません。(足首に少しクシュっと溜めて履いても、かわいいと思います!)

 

 

靴下を裏返すと、接ぎがあるのがわかると思います。この部分、実はミシンを使わずに、すべて手作業で接ぎ合せています。そうすることで伸縮性が高くなり、縫い代が少なくてすむので、ゴワゴワせずに履き心地が良くなります。

 

 

このように、ニット専門ブランドである私たちの知識と経験を詰め込んだデザイン・製造方法・風合いだし加工により、高品質な靴下に仕上げていきます。

 

 

完成した靴下の、なめらかなやさしさ・あたたかさが、こちらの写真から伝わるでしょうか。

 

●「手編み機でつくる靴下」ができるまで

今回の靴下の商品開発にご協力いただいた、就労支援B型事業所「ライク」の代表増田升美さんのインタビュー記事を昨年夏、この【AND MAGAZINE.JP】の特集ページ「topics」でご紹介させていただきました。

 

【topics】2020.08.24
就労支援B型事業所「ライク」代表・増田升美さんにインタビュー–【AND WOOL】の雇用創出プロジェクト–

 

すでにご覧いただいた方もいらっしゃるかもしれませんが、この記事の最後にご紹介した靴下が、今回の靴下です。

実に構想から1年を経て完成し、先月から販売を開始しました。

まだ、実際の製造面でライクさんにお仕事を発注する段階まではいけていません。生産効率や技術面を考えて、今後は可能な限り部分的な製造をお願いできるようにしたいと思っています。

現在販売している製品は、私たちのアトリエに通ってくださっているワーカーさんたちの手を借りながら製造していて、技術的にもこの靴下を作ることができる人が限られることから、数量限定での販売とさせていただいています。

今後、編める人を少しずつ増やしていけるように、頑張りたいと思います。

 

 

私たちはこんなふうに、毎回、製品を使ってくれるお客さんだけではなく、作る人も含めて関わる人がみんな幸せになるように、デザインから製造過程までを考える商品開発を行っています。

このような製品・活動が、今後も少しずつ広がっていくことを願っています。

 

 

AdminFashionBrand 『muuc / ムーク』
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