日常の中に溶け込みながらも「ちょっと特別な」装いを演出する【muuc】のお洋服を、写真と文章でご紹介します。さまざまな場所でさまざまな暮らしを営む方たちに【muuc】のお洋服を実際に着ていただき、写真家の割田光彦さんに、何気ない生活のシーンから「日常と非日常の間」の空気を切りとっていただきました。

 

 

生地に溶かした蝋で絵を描いた後、染料で染めて蝋の部分を洗い流す染色法「ろうけつ染め」で作品を作り上げる、古屋絵菜さん。古屋さんの1日は、朝起きてアトリエに入るところからスタートします。

毎日朝10時くらいから深夜の2時くらいまでアトリエで仕事をしています。もちろんその間に食事もしますし、眠くなったらお昼寝もしますし、散歩にも行きますが、土日を休みにしているということもないので、基本的には毎日ずっと仕事をしている感じです。ただ、染め物は濡らすので、乾く時間が結構必要だったりします。30分とか、1時間とか、度々出てくるその時間を使って、メールを返したり、違う作品の図案を考えたり、スケッチをしに行ったりもします。そんなことをしているうちに、1日終わります。

 

 

古屋さんの住まいは、山梨県の山間の自然豊かな場所にあります。アトリエが併設しているご自宅は、古屋さんが子供の頃から育った場所。その環境が作品作りに大きな影響を与えてくれていると、古屋さんは言います。

育った場所なので、小さい頃から見てきた景色の中にいるとリラックスもできますし、いろんな影響を与えてもらっていると思います。作品のモチーフが花ということもあって、自然の近くにいることは大事だとも思います。自然の中で描くということは、私の制作の根本だと思うからです。

2013年、古屋さんが手がけたろうけつ染めの作品が、NHK大河ドラマ『八重の桜』のタイトルバックに使用され、大きな注目を集めました。これは8mもある大作で、制作には1年かかったそうです。

作品の制作は、年に1~2回開く個展を中心に動いています。個展のときは新しい作品を20~30点ほど制作します。その他、いろいろとご注文をいただくこともあるので複数の作品を並行して作りながら、小さい作品も含めると年間60点くらいは制作していると思います。ただ「八重の桜」はものすごく大きな作品で、あれには作るのに1年間かけました。当時勤めていた大学の工房を借りて、学生が長期休暇で大学に来ない期間などを利用して集中してやっていたので、あのときは「八重の桜」しか作っていませんでした。

 

 

古屋さんはお母様も染色家。小さい頃から「日常に芸術が溶け込んでいた」そうです。芸術が生活の中にあることが当たり前の環境は「もしかしたら特殊なのかもしれない……」と、小学校高学年の頃に感じたそうです。

母はもともと油絵科を出ているので絵画にもとても詳しくて、私のことも小さい頃からよく美術館に連れて行ってくれました。自分の中で「美術館に行くのは当たり前のこと」だったんですけど、小学校高学年くらいになって周りが見えてくると、自分の置かれている環境が「どうやら特殊かも?」と思った瞬間がありましたね。「あれ?みんな違うの?」みたいな感じでした(笑)。でもその頃には、ぼんやりとした夢として「将来、絵描きになりたいな」と、すでに思っていました。

 

 

自分にとっての日常は多くの人にとっての日常ではないのかも……そんな意識をもった子供時代を経て、現在の古屋さんは「日常と非日常」をどう捉えているのでしょうか。

私にとって作品に描いているものは「日常」だと思います。子供の頃からたくさんの自然が身近にありましたし、作品のことを考えている時間のほうが長いので、もはや制作自体が私にとって「日常」です。ただ、展覧会の準備をしているときに意識しているのは、逆に「非日常」なのかもしれないと、今お話ししていてふと思いました。私にとっての「日常」は、見て下さる皆さんにとっては「非日常」のものが多いのではないかと思うからです。今、世の中がすごく便利になり過ぎてしまっていて、人の感性や感覚が少し減退しているようなイメージを感じています。私は二次元的な作品を多く作っていますが、それを二次元の中だけに収めるのではなく、もっと体全体で感じてもらえるように「空間を含めた作品づくり」をすることができないかと、最近はそういう方向で制作を考えていることが多くなっています。

ここ3、4年、古屋さんは真っ白な空間のギャラリーではなく、お寺や古民家などでも展覧会を開催しています。展覧会の会場が決まってから、その場所に合わせて展覧会の趣旨や作品のモチーフを決めていくという作り方をしているそうです。壁に絵がかかっているという「日常的」な雰囲気ではなく、空間全体を使って、中に入った人が「これ、なんかいつもと違う」という「非日常的」な感覚をもてるような見せ方の展覧会のほうが、自分には合っているような気がするとおっしゃっていました。

 

 

古屋さんの次の挑戦は「ワイナリー」です。どんな展覧会になるのか、とても楽しみです。

古屋絵菜個展
・開催日程:2022年10月30日(日)-11月6日(日)
・開催場所:MANNS WINES 勝沼ワイナリー(山梨県甲州市勝沼町山400)

 

 

 

古屋絵菜
染色作家(ろうけつ染め)。武蔵野美術大学工芸工業デザイン科テキスタイル大学院修了。主に「ろうけつ染め」を用いて花をモチーフとした作品を制作、国内外で発表している。2013年にはNHK大河ドラマ『八重の桜』において、5月度のオープニングタイトルバック用に作品を提供。2021年には『ハーゲンダッツ 抹茶flavor』のART PACKAGEを制作するなど、活動の幅を広げている。
・HP:http://enafuruya.com/
・Instagram:https://www.instagram.com/works.furuyaena/

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