今回は、2012年頃からマイナーチェンジを繰り返しつつ、定番商品として制作している「遠州織物」のテキスタイルアイテムについてご紹介します。
【テキスタイルのはなし】
この服の生地は、静岡県浜松市で染められて織られた「遠州織物」です。異なる色に染めた7色の糸を、糸同士を織り重ね合わせることでさまざまな色を表現し、「格子柄」を作り上げています。
シーズンごとに異なる見え感の色に挑戦していますが、表現できる色には限りがあります。また、色を美しく見せることが特長の生地なので、制作の度に「どの糸をどのように組み合わせるか?」に頭を悩ませながら作っています。非常に難しい「テキスタイル」です。それでも、これまでずっと挑戦し続けているのは、何色とも言えないような複雑な色や、他の生地では表現できないような美しい色に仕上がったとき、思わずガッツポーズが出てしまうほどうれしい気持ちになるからです。
さらに、この生地は「風通」と呼ばれるほど風通しがよく、非常に細くて撚りが強い糸を織っているので、汗ばむ季節には肌離れがよく、湿気が多く暑い日でも、気持ちよく着ることができます。色彩の美しさと同じくらい、機能性の高い生地です。浜松市は浴衣生地の産地でもあるので、そのような技術や文化の賜物なのかもしれません。
【シルエットのはなし】
これまで私は、この「遠州織物」の生地を使って、トップスからワンピースドレスまでさまざまなシルエットに挑戦してきました。縫製方法も都度よりよくなるように改良し、きれいに見える方法を試行錯誤しながら修正を繰り返してきました。カジュアルなシーンでTシャツ感覚で着る服から、上品でエレガンスな装いを演出するワンピースドレスまで、できるだけ幅広く楽しんでいただけるアイテムを制作してきました。
2022年の夏コレクション新作では、「ワンピースドレス」を発表しました。着丈を長めにして、着る人の体型を選ばず、「きれいでカジュアル」なシルエットになるように仕上げました。上品さとかわいらしさが見え隠れするような、女性の魅力を最大限に引き出してくれるドレスが完成しました。
【生産継続の難しさのはなし】
2012年頃から作り始めて約10年ほどが経ちますが、10年前と比べると、素材や織りや染めなどの原料費や制作費が年々高騰してきているのを実感します。そして、加工場の慢性的な人手不足も重なり、新たに作ることが非常に難しい状況にもなっています。私のアトリエには、これまでに仕込んだ生地がもう少し残っていますが、これを使い切ってしまったら、おそらくこのシリーズの生産は終了になると思います。私がこれまで手がけてきたシリーズの中でも「名作」と言っていいほど自信があるテキスタイルだったので、もしも生産終了ということになれば、名残り惜しく寂しい気持ちになると思います。
この遠州織物のテキスタイルを気に入ってくださるお客様のために、今ある生地でさらにすてきな服を制作してお届けできるようにしたいと思います。
デザインのはなし
2022.07.11.
ファッションデザイナー
村松啓市