ファッションブランド【muuc:ムーク】が一緒にものづくりをしている工場や、その現場で働く職人さんを紹介します。少しでも多くの人に、私たちの製品の製造現場を見ていただきたいと思っています。

今回は、山形県寒河江市にあるニット工場「ニットオカザキ」さんをご紹介します。「ニットオカザキ」さんは、国内でもいち早く「ホールガーメント」と呼ばれるニットを編む機械を開発し、高い技術でニット製造を行なっている工場です。私たちがこの連載でぜひご紹介したいと強く願っていた工場さんの1つです。

 

●ホールガーメントとは?

今回は、先に「ホールガーメント」と呼ばれるニット製造における技術について説明したいと思います。

「完全無縫製ニット」という言葉を、聞いたことはありますか? こちらのニットは、私たちのブランドの2020-2021 Autumn/Winter collectionとして制作した完全無縫製ニットです。

 

 

写真からもおわかりいただけると思いますが、このニットには、縫製による「つなぎ目」が一切ありません。

「ホールガーメント」というのは「無縫製」という意味で、「ホールガーメントニット(完全無縫製ニット)」というのはその名の通り、縫い合わせを一切行わずに仕上げるニット製品のことです。

ニット製品は、基本的には1本の糸を編むことによって作られます。しかし、通常の製品は、1本の糸で編み上げたパーツ同士を、「縫製」によってつなぎ合わせることで完成させています。ニットで作ったパーツをつなぎ合わせる作業は、布をミシンで縫製する作業とは異なり、編み目を1つ1つ拾って針に通しながらつないでいく「リンキング」という縫製方法がとられています。これにより伸縮も良く、見た目も美しいニットに仕上がるのですが、大変な手間がかかってしまうのです。

 

 

そこで、「1本の糸がつながったまま服の形に編んでしまえば、縫製の手間を省けるのではないか?」という考えから生まれたのが、「ホールガーメント」です。

 

●ニットオカザキが作り出す上質な製品

今回ご紹介する、山形県寒河江市のニット工場「ニットオカザキ」さんは、この「ホールガーメント」で編む機械を使ったニット製造を得意としている工場です。「ニットオカザキ」さんは、国内でも、いち早く「ホールガーメント」に目を付けて、これに特化したものづくりに取り組んできた工場さんです。「ニットオカザキ」の生産量の内、98%はホールガーメント製品なのだそうです。

「ニットオカザキ」さんの技術力は、ニット業界でも大変有名です。

 

 

工場を見学させてもらうと、通常では編めないくらい、柔らかく細い糸を編んだニットを見かけることができました。「なんでここではこんな糸まで機械で編むことができるんだろう」と不思議に思うくらいです。

しかし、よくよく話を伺うと、そこには技術力の高い職人さんたちの存在だけではなく、その方たちの驚くほどの研究熱心さがあり、そういった努力の積み重ねで上質な製品を作り出すことができているということに、納得してしまう思いでした。

さらに「ニットオカザキ」さんは、山形県の地の利を生かし、高品質な製品を作ることができる環境を整えています。アパレルの製造では、たくさんの会社が分業によって製造効率を最大限まで上げることで、手間のかかる高品質な製品を少しでも安くユーザに届ける仕組みを作っています。「ニットオカザキ」さんのある地域はニット産地としても有名な場所で、糸・企画・編み作業・加工と、地元企業との連携を強固にすることで、他ではできないものづくりを実現しています。

 

●非常に貴重なホールガーメントのニット

「ホールガーメント」は、私がニットについて学び始めた学生の頃から、高齢化による人手不足に悩む日本のものづくり現場で、大変期待されていたものでした。しかし、「ホールガーメント」は機械が非常に高額な上、作り手にも高いニットの知識が求められるため、導入することが大変困難な技術なのです。

また「ホールガーメント」が得意なデザインもあれば、不得意なデザインもあるため、その特性をしっかりと理解している企画会社(デザイナー)との連携が必須になります。さらには、最初のデーター作り(サンプル費用、開発費)が非常にかかるため、同じデザインを大量生産するような企画には向きますが、中小企業や個人経営のデザイナーズブランドでは、生産効率に見合いません。

「ホールガーメント」のニットは、こういった様々な課題をクリアして生まれる、大変貴重なニット製品でもあるのです。

 

 

実は私も、文化ファッションビジネススクール(現:文化大学院大学)に在籍時、学内設備のホールガーメント編み機で製品を作り、東京コレクションに初参加するというチャレンジをした経験があります。

優秀な技術者である先生とともに、縫製でつなぎ合わせる必要がなく、ひとつながりできれいに編むことができる、尚且つホールガーメント機械ではないと編めないようなデザインを考えて、やっとの思いでそれをデータ化しました。それなのに、その日の湿度や糸の製造ロットで突然編めなくなったりして……そんな目に何度も遭いながら作品を仕上げました。そのときに「ホールガーメント」の難しさを思い知りました。

ちなみに、そのときに作った作品の一部がこちらです。

 

 

下の写真は、「ホールガーメント」のセーターに絵柄をプリントしたものです。この他にも、完全無縫製の特性を活かして「全身タイツ」を作り、それをダンサーの方に着てもらうということもやったのですが……もう15年以上も前のことで、写真が手元に残っていませんでした(笑)

 

●高い技術力で仕上げられた最高の着心地

「ニットオカザキ」さんの創業は1965年。今から50年以上前のことです。昔から職人さんたちは非常に研究熱心で、95年に「ホールガーメント」にいち早く目を付けて、未来のニットビジネスを見据えて急展開を行ったそうです。当初、社内技術者は、「ホールガーメント」のメーカーに半年間泊まり込んで、研究開発に取り組んだそうです。

そんな研究熱心な姿勢は現在も引き継がれ、「ニットオカザキ」の職人さんたちの手にかかった「ホールガーメント」のニットは、他には類を見ないほど最高の着心地を実現しています。

 

 

私たちのブランドでは、今年の秋冬商品として「ニットオカザキ」さんによる「ホールガーメント」のセーターとタートルネックセーターの販売を予定しています。すばらしい着心地を、ぜひたくさんの方に体感していただきたいと思っています。

最後に、私が今年「ニットオカザキ」さんの工場を見学させていただいたときの動画をご紹介します。ご興味のあるかたはぜひご覧ください。

 

 

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